内積空間の完備化

いろいろな教科書にあると思いますが、講義でよく用いるので、私の好きな書き方で証明してみました。「H0を内積空間とする。Hilbert空間Hがあって、H0Hの稠密な部分空間と等長的同型になる。このようなH(H0の完備化)は同型を除いて一意に決まる。」。下記の証明では、実数全体H=Rは有理数からなるCauchy列の集合の同値類(同じ値に収束するCauchy列どうしを同値とする)と読み替えることができます。

Hとその内積を定義

K上の内積空間H0のCauchy列全体をX{xn}n=1,{yn}n=1Xの同値関係{xn}n=1{yn}n=1xnynH00 (n)とし、その商をH:=X/と書くものとします。そして、{xn}n=1Xのクラスを[{xn}n=1]Hと書くと、{xn}n=1,{yn}n=1X, α,βKについて、[{xn}n=1],[{yn}n=1]H, αxn+βynH0, α[{xn}n=1]+β[{yn}n=1]=[{αxn+βyn}n=1]Hが成立し、Hは線形空間となります(クラスの代表元によらないことはお確かめください)。また、Hにおける内積を[{xn}n=1],[{yn}n=1]H:=limnxn,ynH0で定義します。右辺の極限が存在し、その代表元によらないことは、以下のように示せます。{xn}n=1Xに対して、|xnH0xmH0|xnxmH0より{xnH0}はCauchyで、したがって有界です。そして、Cauchy列{xn}n=1,{yn}n=1Xに対して、|xn,ynH0xm,ymH0||xnxm,ynH0|+|xm,ynymH0|ynxnxmH0+xmynymH00が成立し、実数列xn,ynH0は収束します。また、{xn}n=1{xn}n=1, {yn}n=1{yn}n=1のとき、
|xn,ynH0xn,ynH0|ynxnxnH0+xnynynH00より、代表元のとりかたによらないことがわかります。

H0Hで稠密

次に、T:H0Hx[{x,x,}]で定義すると、Tx,TxH=x,xH0を満たすので等長写像です。Tの像は、Hで稠密でもあります。実際、{xn}n=1Xについて、Txl=[{xl,xl,}]は、Txl[{xn}n=1]H2=Txl,TxlH2Txl,[{xn}n=1]H+[{xn}n=1],[{xn}n=1]H=xl,xlH02limnxl,xnH0+limnxn,xnH0=limnxlxnH02さらに、{xn}n=1はCauchyであるので、lで右辺は0となります。すなわち、x1[{x1,}], x2[{x2,}], , が[{x1,x2,}]に収束します。[{xn}n=1]Hの任意の要素ですから、H0Hの稠密な部分空間であることが示せました。

Hは完備

最後にHの完備性を示します。{xn(1)}n=1,{xn(2)}n=1,Xについて、[{xn(1)}n=1],[{xn(2)}n=1],HがCauchyであると仮定します。内積の定義から、[{xn(l)}n=1][{xn(m)}n=1]H=limnxn(l)xn(m)H0であり、[{xn(1)}n=1],[{xn(2)}n=1],がCauchyであるので、任意のϵ>0について、ある正整数Nがあって、l,m,nNxn(l)xn(m)H0<ϵとできます。また、m,nNxn(n)xm(m)H0<ϵとできるので、{xn(n)}n=1H0のCauchy列となります。特に、{xn(n)}n=1X, [{xn(n)}n=1]Hが成立します。したがって、[{xn(n)}n=1][{xn(l)}n=1]H2=limnxn(n)xn(l)H02においてlを十分大きくとると、右辺を十分に小さくできます。したがって、lで、H[{xn(l)}n=1][{xn(n)}n=1]Hが示されました。